はじめに音楽大学や芸術大学の作曲科を目指しておられる方の多くは、いわゆる「芸大和声」(和声ー理論と実習)をテキストとして使用される現状があります。ただし、三巻終了後か学習途中でシャランやフォーシェなどのいわゆるフランス和声の課題に取り組むこともよくあることと思います。小生も受験生の指導を行うときに、このような方法をとることが多いのですが、その際、和声記号から数字への移行がスムーズに行えない状況を多々目にしました。そこで、「芸大和声」と「フランス和声」のアプローチの違いを踏まえた上で、数字付けの基本について書きたいと思います。
芸大和声についていわゆる芸大和声は、和音の「機能」を中心として書かれています。ですので、ⅠやⅣなどの度数が重要な要素となっています。そのため、終止についての意識を自然に体得することもでき有用ではあります。しかしながら、そもそもクラス授業で使用されることを前提としていますので、借用和音がⅤ度調のⅤ度(つまり、ドッペル)と他の調のⅤ度が区別されていたり、禁則の定義が途中で変化したりと、学習が進むにつれてやや混乱のきたす可能性も秘めています。
フランス和声についていわゆるフランスは、和音の種類(長三和音や短三和音など)や各声部の旋律進行を中心に書かれています。ですので、いわゆる和声記号は必要なく、バス課題であれば、数字さえあれば、配置などについて事足りることになります。
ここではっきりさせておきたいことは、最終到達地点はいずれも同じです。アプローチが異なると思ってください。
数字付けについてフランス和声の数字についてはバロック以前の通奏低音に見られるものに準拠しているのですが、特殊なものもありますので順番に書きます。
基本的な考え方・バスからの上三声の音程を表します。たとえば、三和音の基本形で密集の場合、3,5,8(本来は縦に下から並べて書きますが、フォームの関係上左側が一番下になります。これは以下も同様です)と記載することになります。複音程は単音程に直して書きます。・基本的にはできるだけ数字は少なく書くことになっているため、3と8は省略され、三和音の基本形は5となります。・同様に第一転回型は3,6となり、3が省略されます。よって、三和音の第一転回は6となります。・三和音の第2転回は、省略することができないため同様の考え方から、4,6となります。副七の和音については、三和音と同様の考え方で、基本形が7、第一転回形が5,6、第2転回形が3,4、第三展開系が2となります。・上方変化や下方変化があった場合はその音の右横に臨時記号を記入します。その場合、今まで省略していた5音についても、♯5のように記入します。ただし短調のピカルディーなど場合、3音が上方変化している場合は♯のみで大丈夫です。たとえば長調でⅤ→○Ⅵ→○Ⅳ→Ⅰと進行するとき、5→5→♭→5となります。○Ⅵについては、バスがすでにフラットになっているはずなので、「5」だけで十分です。
ここまでは、通奏低音と同じ考え方です。
属7、属9の和音属和音については、導音は数字の右横に+をつけることになっています。・属7の基本形は+,7、第一転回は5,6(5にはスラッシュをつけて減5度をしめす)と書き、「減56の和音」と呼びます。第2転回は+6と書き、第3転回は+4と書きます。いずれの転回形も導音の位置を示すことで、和音の種類が示せます。もちろん第一転回系は導音がバスにあるため+はありません。・属7の根音省略については、第一転回が5(スラッシュ付き)、第2転回が3,+6、第3転回が+4,6と記載します。・属9については、長9と短9は芸大和声では同じものとして扱われますが、前述したとおり、和音の種類にスポットされているため別のものと扱われます。頻出する根音省略形の場合について書きます。・長9の根音省略の第一転回は5,7(5にスラッシュ)、2転は+6,5、3転は+4,3、4転は+2,4となります。・短9の根音省略の1転は、7(スラッシュ付き)、2転ぱ5,+6(5にスラッシュ)、3転は3,+4、4転は+2と記載します。・ちなみに根音ありのばあいは、すべての上声部の数字がありますので、苦労はないかと思います。
注意が必要なのは、借用和音(ドッペルや他調の属7も同じ数字で表します。
特殊なケース属和音の第2転回で5音(バス)が下方変化している場合に限り、導音の+を用いず、臨時記号で表します。これらの和音のことを「増6の和音」と呼びます。・属和音(3和音の場合)は♯6、属7の場合、3,4,♯6、短9の場合、3,♭5,♯6となります。上三声が休符の場合は、0と表します。・係留音の場合、7-6などと特に指示がしている場合があります。数字は小さいものから記載されるのが原則ですが、6,4などと大小が入れ替わっている場合は、上三声の配置が強制されているものです。ですのでこの場合は、バスから見て6度音が4度音より下の声部に配置する必要があります。
まとめ最初は混乱するかもしれませんが、慣れると煩雑な和声記号から解放され、さらには配置まで指示することもでき、大変有用だと思います。エクリチュールを学習される方にこのノートが少しでも役に立てれば幸いです。なお、ここに記した数字についてはテオドール・デュボワの「和声学」を元にしております。さらに詳細を確認されたい方は原書にあたってください。
蛇足ですがフランス和声の課題集としてシャランの380の課題集を用いる方も多いと思いますが、独習には不向きで、必ず先生に添削を受けながら進んでください。特に、9巻10巻については、入試レベルを超えた課題もあり、すべての課題を順番に実施すると、混乱を招く可能性があります。もし、個人的に研究されるのでしたら同じシャランでも24の課題集をおすすめします。